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秋田地方裁判所大館支部 昭和36年(わ)81号 判決

被告人 関善兵衛

昭五・三・二三生 会社員

鈴木慶三

昭五・九・五生 会社員

主文

被告人両名をそれぞれ禁錮六月に処する。

ただし、この裁判確定の日から各一年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は二分しその各一宛を被告人両名の各負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人関善兵衛は秋田県鹿角郡花輪町所在の鹿角自動車整備株式会社の営業課長として、被告人鈴木慶三は同県大館市御成町四丁目所在の株式会社北燃商会大館営業所の所長として、いずれもプロパンガスの販売およびその取付工事等の業務に従事しているものであるが、被告人関は右鹿角自動車整備株式会社が株式会社湯瀬ホテルからプロパンガス取付工事の依頼を受けたので、その工事施行のため、被告人鈴木は右株式会社北燃商会が右鹿角自動車整備株式会社にガスを卸売している関係で、右プロパンガス取付工事の応援のため、ともに昭和三十五年九月二十三日鹿角郡八幡平村宮麓字湯端四三番地にある新館建築工事中の株式会社湯瀬ホテルに赴き、同日午后一時頃から共同して同ホテル新館二階調理室東側出入口附近の屋外で、ガス管にプロパンガスのボンベを取付けるに際し、配管先におけるガス器具設備の有無および密栓の有無等を調査することなく取付作業にかかり、同日午後四時過頃五十キロ入りボンベ三本の取付工事を完了してガス洩れ試験を行つたところ、右調理室に隣接した職員食堂内のパイプが開放したままであることを発見し、配管工事責任者である山田新三郎に依頼して密栓を施そうとしたが、右食堂は施錠されていて入室できず、その鍵の保管者も不在で密栓を施すことができなかつた。かかる場合プロパンガス取扱業者としてはガスボンベを取付けたまま放置すれば右事情を知らない者がボンベのバルブを操作する虞があり、かつ、これに伴いガス放出による引火爆発等の事故発生の危険があることを慮り、ガスボンベ取付口の銅管を取はずしておくか、ボンベバルブが他人から操作されないようにキヤツプをしておく等適宜の措置をとり事故発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかゝわらず、これを怠り時刻も午后八時頃となつたたため、かかる措置を施さず、単にボンベバルブを締めたうえ前記山田新三郎に対し明日にでも密栓を施すよう依頼しただけで前記ボンベ三本をガス管に接続したまま屋外に放置した過失により、同月二十五日午前十一時過頃、何びとかから前記三本のボンベのうち中央のボンベバルブを回転されたためボンベ内のガスが前記食堂のパイプ開放口から放出するに至り、同日午後二時頃千葉幸蔵(当時二十四年)が右食堂内でガスの放出に気付かず喫煙のためライターを点火した際、右食堂内に充満したガスに引火爆発したため、同人をして全身火傷により間もなく同郡花輪町所在鹿角組合病院において死亡するに至らしめたほか、付近にいた阿部常夫(当時二十三年)をして加療一ヶ月を要する顔面、両前膊、手背、全指、左下腿火傷、羽田卯七(当時四十五年)をして加療約一ヶ月を要する顔面、両前膊、手背、全指、両下腿火傷、後頭部裂傷、浅野勝吉(当時十九年)をして加療約二ヶ月を要する顔面、両前膊、手背、全指、全背部、腹部、両側下腿火傷、草野秀之(当時二十三年)をして加療約一ヶ月を要する顔面、両側上膊部、手背、全指、両側下腿火傷、鈴木与平をして加療約一週間を要する左上膊火傷の各傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人両名の判示所為中被害者千葉幸蔵に対する業務上過失致死の点およびその余の被害者に対する各業務上過失傷害の点はいずれも刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条第三条に該当するが、右の各所為は各被告人につきいずれも一個の行為にして数個の罪名にふれる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条により犯情の最も重いと認める被害者千葉幸蔵に対する業務上過失致死罪について定めた刑をもつて各処断すべく、所定刑中いずれも禁錮刑を選択し、その犯情について考察すると、本件犯行の結果は誠に重大であつて、これが被告人両名の過失に起因することは前記判示のとおりであるけれども、他方配管設備および配管に接続するガスレンヂ等のガス器具が完備しない状態においてガス取付工事を依頼した湯瀬ホテルの管理者の責任、および被告人両名から前記判示の開放せるガス管に密栓を施すことを依頼されながらこれを怠つていた配管工事責任者たる山田新三郎の責任もまた軽視できず、被告人両名および右の者等の過失が競合して本件事故の発生を招いたものであつて、その結果を被告人両名のみの責任に帰せしめることは相当でないと認められるので、所定刑期範囲内において被告人両名をそれぞれ禁錮六月に処し、右犯情のほか諸般の情状を考慮し刑法第二十五条第一項を適用して被告人両名に対しいずれもこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則り主文第三項記載のとおり被告人両名に各負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 山本久已 山田忠治 杉島広利)

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